敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「どんなに言い訳してもあなたが綾人を裏切った事実は変わらないわ。綾人も内心、あなたを信じ切れていないでしょうね。また裏切られるんじゃないかって。それでいつまで夫婦でいられる かしら?」

「私は……」

 唇を噛みしめ、川嶋さんの目をしっかり見つめた。

「過去は、変えられません。でも私は綾人を愛しています。信じてもらえないなら信じてもらえるよう努力します。だから、あなたになにを言われても綾人の隣は譲りません」

 川嶋さんの言葉ではなく、綾人の言葉を信じる。

 綾人と別れた時、大林さんの件があったとはいえ、綾人の気持ちを信じきれずに、ひとりで勝手に決断した。

 けれど今、綾人が私や凌空を大事にしてくれて、愛されているのがわかっている。もうあのときと同じ過ちは繰り返さない。

 きっぱり言い切ると、彼女は小馬鹿にしたように笑った。

「よく言うわ。せいぜい夫婦ごっこを楽しむのね。最初からあなたじゃ綾人に釣り合わないし、どうせ彼があなたといるのが苦しくなって、そう長く続かないから」

 まるで予言だ。勝ち誇った笑みを浮かべる川嶋さんに私も笑顔をつくる。

「ご忠告感謝します。でもあなたが言うような未来にはさせません」

 私の切り返しに彼女は綺麗な顔を歪め、踵を返す。川嶋さんの姿が見えなくなると一気に汗が噴き出し、その場に項垂れそうになる。心臓が早鐘を打ち出し胸が苦しい。

 少し前の私なら、言い返すなどできなかった。現に綾人と別れたときは、川嶋さんの言葉をただ受け止めるだけだったけれど今は違う。
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