敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
 綾人を信じているし、凌空という守りたい存在がいる。ひとりじゃない。

 それにしても相変わらず彼女の着ている服は有名な高級ブランドのものでメイクも髪もモデルさながらだ。 。

 対する私はお洒落さの欠片もない。綾人は気にしないと言ったけれど、私はこのままでいいのかな?

 頭を振って、私もマンションに引き返す。ガムテープを買う余裕は今の私にはなかった。玄関のドアを開け、崩れるようにその場に座り込んだ。

 ひとつだけ彼女の発言に胸をえぐられた。

『あなたがどんな理由で綾人に別れを告げたのかなんてどうでもいいの。だって綾人より優先するものがあって、彼を切り捨てたんでしょ? 捨ててもいいって思ったんじゃない』

 別れた時の事情を綾人には、まだきちんと説明できていなかった。言うべきだと思う自分と、それはただの自己満足なんじゃないかって揺れていた部分があったから。

 自分でも言ったはずだ。過去は変えられない。どんな理由があったにせよ、綾人を傷つけて裏切ったのは事実だ。私は彼よりも両親を優先した。綾人を切り捨てたんだ。

 さらに綾人に内緒で凌空を出産して、育てて……。再会してからも父親だと切り出せなかった。

 私、綾人に嘘ばかりついてきた。

『あなたみたいに綾人を一番大事にできない人が、彼を幸せにできるわけない』

 そんなことない。綾人を一番大事にする。彼の信頼を取り戻して不安にはさせない。幸せと思ってもらえるように頑張る。

 心に誓い、気持ちを落ち着かせる。そろそろ綾人が凌空をつれて帰ってくる頃だ。

 無理やり笑顔を作り、私は立ち上がってリビングに向かった。
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