敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
第六章 碧空に約束する未来
 まだ必要なものは多々あるが、九月の連休でなんとか引っ越しを終え、私たちは一緒に暮らし始めた。お互いのアパートやマンションに通っていた時とは違い、生活を共にするというのは良くも悪くもまた違う。

 気を使ったり、気を張ったりする部分は確かにあるが、やはり綾人と凌空と三人で暮らせるのは嬉しかった。

 けれど戸惑うことも多々ある。

「きゃー」

「凌空、走らないで。靴下脱がないと転ぶよ」

 保育園から帰ってきて、バタバタとリビングを走り回る凌空に注意する。

 綾人が選んだマンションはコンシェルジュ付きの富裕層向けのもので、今までのアパートや私の実家からすると、どう考えても分不相応だ。

 セキュリティを重視した、なんて綾人は言っていたけれど、あまりの広さと部屋数に凌空は引っ越してからずっと興奮状態になっている。正直、私も落ち着かない。

 ゲストルームや私の仕事部屋まで用意されていて、綾人が私と凌空と一緒に住むためにあれこれ考えてくれていたのがよくわかる。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 夕飯の支度をしていたら、綾人が帰ってきたので声をかける。凌空もおもちゃで遊んでいた手を止め、綾人に駆け寄った。

「おとうしゃん、おかえり」

 綾人は凌空の脇下に手を入れ、高く抱き上げた。視界が高くなった凌空は機嫌よく笑う。綾人が帰るとこうして抱っこしてもらうのが定番になりつつあった。

「ただいま、凌空。今日も保育園楽しかったか?」

「りく、おうたうたった。おつきさまのうた」

「へー。どんな歌?」

 ふたりの微笑ましいやり取りに目を細める。幸せを感じる一方で、チクリと棘が刺さったような痛みが走った。

 大丈夫。私も凌空も綾人も、みんな幸せだ。

 問題らしい問題は起きていない。しいて言うなら……。
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