別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 大きな手のひらが頭を滑り、唇に柔らかい感触がある。

 きっといつもの夢だ。大好きだったのに一方的に私が手放した……。

「綾、人」

 ぱちりと目が覚めて体を起こす。隣には凌空が寝ていて、しばらく夢と現実の区別がつかずにいたが枕元に置いてあったスマホで時間を確認し、ベッドから飛び起きた。

 午前七時。保育園や仕事にならまだ間に合うし問題ないが、私はもっと早くに起きるつもりだったのだ。

 綾人の出社が午前六時なので、彼を見送るためにアラームをかけていたはずなのに、気付けなかったらしい。

 案の定、夜中から朝方にかけ凌空は何度か目が覚めて、そのたびに抱っこして寝かしつけてを繰り返したから、眠気が勝ったのかもしれない。

 部屋のドアを開けリビングを見渡すが、当然人の気配はない。

 綾人、行っちゃったんだ。

 その場にへたり込み、どっと落ち込む。きっと休みである私たちに気を使って声をかけずに出ていったのだろう。

 いちいち起こすほどでもない。私が綾人でも同じようにしたと思う。

 けれど、だからこそちゃんと起きないといけなかったのに――。

『可南子がいってらっしゃいって笑顔で見送ってくれて、帰ったら凌空とおかえりなさいって迎えてくれるのが、今はなによりも嬉しい』

 妻として、綾人が望むことをできなかったことを悔やむ。なにより私自身、彼をきちんと見送りたかった。

 顔を見ていないだけで、ひどく胸騒ぎがして息が詰まりそう。

 そこである考えを思いつく。今日はとくに用事がないから、綾人を空港まで迎えに行こう。勤務表によると、国内線の往復で十四時には勤務終了になっている予定だ。

 凌空もあれ以来、行っていないし。綾人の操縦する飛行機、見られるかな?

 綾人に会ったら朝見送れなかったことを謝罪して、笑顔でフライトを終えた彼を迎えられるようにしようと決意する。

 気持ちを浮上させ、凌空を起こしに私は寝室へ向かった。
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