別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「可南子?」

 彼が心配そうに声をかけてくるのにも答えられない。耳鳴りがするほどの静けさが降りてきた後、私はおもむろに口を開いた。

「私……綾人を幸せにできるのかな」

 あの政略結婚が川嶋さんによって全部仕組まれていたものだとわかって、湧き起こるのは怒りや納得ではなく、自分の愚かさや過ちだけだった。

 綾人を一番大切にしていたら、綾人を優先していたら、解決していたのかもしれない。

 彼を傷つけずに済んだのかもしれないという事実が、過去に対する反省や後悔というよりも未来に対する恐怖になっていく。

「綾人を一番にできなくて、怖いの」

 これからは綾人を誰よりも優先して一番にするという覚悟が私にはできない。現に、凌空を優先したせいで今朝は綾人の見送りができなかった。

『あなたみたいに綾人を一番大事にできない人が、彼を幸せにできるわけない。また裏切って傷つけるに決まっている』

 私じゃ、いつかまた綾人を傷つけてしまう。この先、一緒にいたとしても……。

「一番にできないのは、俺も同じなんだ」

 ぽつりと返された言葉に思考が止まる。

 そっと綾人をうかがうと、彼は切なそうな目で私を見つめていた。こわごわと背を向けていた状態から再び彼の方を向くと、至近距離で目が合う。彼はそっと私の頰に触れた。
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