敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「凌空、お父さんだよ!」

「ん? おとうしゃん、どこ?」

 興奮気味に凌空に伝えるが、彼は辺りをきょろきょろ見回す。仕事仕様のアナウンスでは、声だけで綾人だとは伝わらないのだろう。

 無理もないか、と苦笑しつつ背もたれに体を預け、心地いい声に耳を澄ます。

 到着予定時刻や目的地の気温や天気、現在飛んでいる場所などを綾人は淀みなく伝えていく。

 綾人、すごいなぁ。

《また、当便で初めて飛行機を利用される方もいらっしゃると思います》

 おそらく定型文ではない内容にドキリとして背を浮かせた。

《素敵な思い出となりますよう、安心、安全に務めてまいりますので、どうぞ空の旅をお楽しみください。どうか再びご利用いただけることを願っております》

 アナウンスが終わった後も、私は綾人の言葉を嚙みしめ、静かに目を閉じた。

 ああ……そうだった。

『彼氏が着々とパイロットへの道を歩んでいるのに、可南子は着々と飛行機に乗らない記録を更新中だな』

『しょ、しょうがないでしょ。乗る必要ないし、高いところ苦手なんだもん』

 社会人一年目になり、おかしそうに告げる綾人に真面目に反論する。やっぱり彼女なのに、飛行機に乗ったことがないっておかしいのかな?

 でも綾人がパイロットになるのはまだ当分、先だし。その前に一度くらい乗る機会があっても――。

『俺がパイロットになったら、俺の操縦する飛行機に可南子を乗せるよ』

 ふと肩を抱き寄せられ、先ほどとは違う 優しい面持ちで告げられた。
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