別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「ありがとう。私でよければ」

 だから素直に答える。彼は別の世界の人だと思っていたし、話すのも話題を探して緊張した。正直、今も鼓動が速い。

 でも嫌な感じはしなくて、短い会話の中で私も本音で話せたのは事実だ。

 ここでどちらかの家に行こうと言われたら、きっと警戒してやっぱり帰るとなったかもしれない。でも彼が提案したのは近くの公園のベンチだった。

 自動販売機でペットボトルのお茶を買って、ふたり並んで他愛ない話を始める。夏の夜空を見上げて、時折空の話をして気づけば時間はあっという間に過ぎた。

 日付が変わる寸前で、彼が時計を見遣りアパートの近くまで送ってもらう流れになる。別れる間際に連絡先を交換して、お開きとなった。

「今日はありがとう。集まりに行ってよかったよ。山口さんに会えたから」

「こちらこそ、進藤くんとたくさん話せて楽しかった。ありがとう、おやすみなさい」

 また連絡するとは言わないし、する気もなかった。彼もそうだろう。偶然の巡り合わせで、思いのほか楽しい時間を過ごせた。彼もそうだったら嬉しい。

 ところが、わりと早いタイミングで彼から連絡があり、私たちは再び会うことになった。気になっていたお店に食事に行ったり、なにげない会話の中で話題になった映画を一緒に見に行ったり。気づけば何度もふたりで会っていた。

 誘われて予定が空いていたら素直に応じたものの、進藤くんは私と一緒で楽しいのだろうかと何度も疑問を抱いた。おもいきって尋ねてみると『楽しくなかったら誘わないよ』と言われ、嬉しいような気恥ずかしい気持ちになる。
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