敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
 だから少々無理してでも凌空の親としてひとりで頑張ると決めた。父親がいないから不幸だとか寂しいとか思わせたくない。その分、私が凌空を守ってたくさん愛していく。

 その決意は変わらない……はずなのに、心はずっとざわめきっぱなしだ。

 原因はわかっている。綾人とあんな形で再会するなんて夢だけで終わるはずが現実に起こってしまった。

 カーテンの間に手を掛け、少しだけ開けて夜空を視界に映す。

『飛行機って夜も飛んでいるの?』

『この時間なら国際旅客便や貨物便かもしれないな』

 莉愛を送った帰りに綾人と公園のベンチで並んで話したのは、そんな他愛ないやりとりだった。ちょうどこれくらいの季節だ。

 感傷に浸っている場合ではない。さっさと彼との縁は断ち切ろう。

 そこでふと冷静になる。そもそも断ち切るほどでもない。彼との縁はとっくになくなっていて、今日は偶然が重なっただけだ。

 それなら用件はさっさと済ませてしまおう。

 緊張しつつスマホの画面をタップし、綾人の連絡先を開く。別れてからもここまでの作業は何度かしたことがある。けれどここから先――私から彼に連絡をとることはなかった。

 パイロットっていつがお休みなんだろう?

 ふと疑問が浮かぶが、考えてもしょうがない。今の私は彼のことも現状もなにもわからないのだから。

 手短にショートメールを送り、スマホを置く。明日の保育園の準備と洗濯物を干しておかないと。
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