別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「遠慮しなくていい。早く迎えに行った方がいいんだろ?」

「それは、そうだけれど……」

 私は電車通勤で、保育園は職場ではなく家から徒歩で行けるところを選んだ。そのため職場近くのここからだと、保育園は駅まで歩いて乗り換えが必要になってくる。だから、彼の申し出は正直言うとありがたい。しかしここは断るべきだ。

「ほら。俺はこのあと用事もないから、素直に甘えておけ」

 昔からそう。周りをよく見ていて困っている人を放っておけない。もしもこれが彼の純粋な善意なら無下に断る方が失礼なのかな。 

 私は小さく頷いた。

 もう関わらないと決めたのに、甘えるなんてもってのほかだ。けれどいつも私が迷ったり落ち込んだりしたら彼はこうして手を差し出してくれていた。

 でも勘違いしないようにしないと。あの頃とは違う。私も彼も、お互いがいない人生をとっくに歩んでいるんだから。

 彼の車は付き合っていたときのものとは違っていた。三年も経ったし、そこまで驚くことではないけれど助手席に座るだけで緊張してしまう。

「どこの保育園?」

「あ、そんなに複雑じゃないから口で説明するよ」

 ナビに入力しようとする綾人を制して簡単に道順を告げる。ナビ頼りだと遠回りさせられる場合もあるし。

「子どもの名前、りくだっけ?」

 さりげなく凌空について尋ねられ、どぎまぎしながら答える。

「うん。にすいの凌ぐっていう漢字に空で凌空」

「空、か。可南子好きだったよな」

 彼の口から紡がれた“好き”という言葉にわずかに気持ちが揺れる。
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