別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「あ、でも……」

 反射的に断ろうとしたが、思い留まる。彼の意図がわからないが、頑なに拒否して余計な不信感を招く真似は避けたい。

「ちょっと、ここで待っててくれる?」

「ああ」

 短いやりとりを交わし、今度こそ私は車を降りた。

 いつもより緊張して凌空を迎えに行く。お昼寝の時間なので二歳児クラスは静かなものだ。凌空は職員室で先生に抱っこされていた。

「先生、すみません。山口です」

「お母さん、お仕事で忙しいところごめんなさいね」

「おかあしゃん!」

 凌空は私を見るなり元気に手を上げる。

「元気だし、熱もないんですが背中に発疹が出て……」

「わかりました。家で薬塗って様子見てみます」

 先生には恐縮されたが、連れて帰るのは仕方がない。一見、元気でも発疹が出るということは本調子じゃないんだ。

 凌空を抱っこし、荷物を受け取る。赤ちゃんの頃に比べると、言葉も出てずいぶんと大きくなった。とはいえまだ二歳。保育園は大好きだけれど、無理をさせていることもいっぱいある。

 父親がいない寂しさだって……。

 そこで頭を振る。いつもの門ではなく、駐車場に続く方の門を出た。

 綾人は、なんで凌空に会いたいなんて言ったんだろう? なにか勘づいた? 単なる興味?

 まだ日差しが強い中、アスファルトに浮かぶ自身の短い影を見つめる。そうこうしているうちに駐車場の入口に差し掛かった。相変わらず停まっているのは綾人の車だけだ。

 一歩踏み出すや否や綾人は運転席から降りてくる。
< 31 / 189 >

この作品をシェア

pagetop