別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 父と母が大切にしてきたお店をなくしたくない。私にとってもたくさんの思い出が詰まっている。ここに来た人たちの笑顔が頭を過ぎった。

 川嶋さんにも言われたじゃない。綾人みたいな人と私が結婚できるわけがない。今はともかく、彼がゆくゆく隣に求める相手は、私じゃないんだ。この話を私が受けたら、すべて丸く収まる。

 最後まで姉は私を心配してくれたが、大丈夫だと明るく振る舞い、久々の家族そろっての時間を楽しめた。

 そして年が明け、一月も半ばが過ぎた頃、久しぶりに綾人に会えた。
 
私のアパートに彼が迎えに来てくれて、外でデートして夕飯を食べたあと、綾人のマンションに足を運ぶ。お決まりのようで、こんなにも一緒に過ごせるのは、いつぶりなのか。

 川嶋さんのことを何度も切り出そうとして、それよりも伝えなければいけないことで頭がいっぱいだった。そんな中、結局彼に溺れてしまい、決心がますます揺らぎそうになる。

 ひとまず服を着て綾人の方を向くと、彼の腕の中にすっぽりと閉じ込められた。

「帰したくない。泊まっていけないか?」

「ご、ごめん。仕事で……」

 たどたどしく答える私の頭を綾人は優しく撫でた。

「そうだな。いつも俺の都合で振り回してばかりだから、可南子を困らせるわけにはいかないな」

 綾人が苦笑しているのがわかる。

「可南子じゃないと、とっくに愛想尽かされていると思っている」

 しかし彼が冗談交じりで続けた言葉に私は冷水を浴びせられたようだった。
< 59 / 189 >

この作品をシェア

pagetop