別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
『綾人、いろいろ疲れちゃったのかしら? だから将来のこととか考えなくてもいい、自己主張しなさそうな平凡なあなたに気晴らしに声をかけたんでしょうね』

『自分から会いたいとか言わなくて、いつも綾人の都合のいいときだけ会ってくれるって。便利な存在ね』

 川嶋さんに言われた内容が頭を過ぎり私は彼の胸を推して距離をとった。

「可南子?」

「綾人は……なんで私と付き合ったの?」

 自分でも驚くほど冷たい声だった。

「どうした?」

「自己主張しなさそうだから? いつも綾人の都合のいいときだけ会ってくれるから?」

 自分でも珍しく声を荒げて尋ねる。

「なに言ってるんだよ。そんなわけ」

「私と別れて」

 勢いのままに告げると、綾人が驚きのあまり硬直しているのが伝わってくる。しかし私は堰を切ったように止まらない。

「私が会いたいってわがまま言っていたら、とっくに上手くいってなかったんでしょ? いつも綾人の都合に振り回されてばかりで、もうたくさんなの。それに二年くらいアメリカに行くのも決まっていて……遠距離なんて私、無理だから」

 違う。そんなこと思っていない。でも――。

『私だったら好きな相手には毎日でも会いたいから理解できないわ』

『私なら定期的に会いにいって、彼を支えてあげられるけれど、あなたはどうせ日本で彼からの連絡を待つだけなんだもの』

 川嶋さんと比べたら私は彼女失格だ。それどころか最初から彼女と同じ土俵にさえ立っていない。
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