別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 不意に両肩に手を置かれ、驚きで顔を上げると真剣な面持ちの綾人と目が合う。

「ごめん、そんなふうに可南子が思っているなんて知らなかった。甘えすぎていた。アメリカに行くことはどうしようもないけれど極力連絡する。俺は別れたくない。今日は可南子に」

「私ね、結婚するの」

 これ以上聞いてはだめだと心が叫び、遮る形で言い切る。綾人は目を見開き、動揺を隠せずにいた。私は再び彼から視線を逸らす。

「綾人と違って、私の会いたいときに会ってくれる、そばにいてくれる人がいるの。その人と結婚する。子どもも早く欲しいし、もう綾人とは無理だよ」

 この言い方は、二股をかけていたと綾人に思われてもしょうがない。それでもいい。綾人だって川嶋さんという存在がいたくせに。二股かどうかはわからないが、私の前に彼女と付き合っていて、そのあとも定期的に連絡を取り合い会っていたのは事実だ。

 責めたい気持ちをぐっと堪える。もういい。知らなくていい。これ以上、傷つけるのも傷つくのも御免だ。

「だから別れよう。今日で会うのは最後にする。今までありがとう」

 心臓が音を立て、涙があふれそうになるのをぐっと堪える。言い終わるのと同時に耳鳴りがするほどの静けさが舞い降りた。

「それが可南子の本心なのか?」

「そうよ。もう綾人のことは好きじゃない」

 いささか落ち着いた声で綾人が尋ねてきたが、私はすげなく返す。

 嘘でも嫌い、とは言えなかった。そのとき彼の手が頬に伸びてきて、驚きで綾人を見る。
< 61 / 189 >

この作品をシェア

pagetop