敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
 綾人が早めに来るのはわかっていた。付き合っている時も、彼はいつも時間に余裕を持って行動する人だったから。待ち合わせ場所に行けばもう来ているなんてざらだった。

『早く可南子に会いたかったんだ』

 謝る私に、彼は笑顔で告げてきた。

『嘘。綾人の場合はもう性分なんでしょ?』

 私に限ったことじゃない。そんな風に唇を尖らせたのを思い出す。

「可南子と凌空に早く会いたかったんだ」

 さりげなく呟かれた言葉に我に返る。さすがにあの頃みたいに『嘘』とは返せなかった。

 綾人の車の運転席のうしろの席にはチャイルドシートが設置され、窓には日よけもセットされている。初めて乗る車に凌空は興味が隠せないようで、すんなりと座ると中をきょろきょろ見回した。

「わざわざチャイルドシートまで用意しなくてもいいのに」

 ここまでしなくても、と思ってついあきれた口調になる。今日だけのために、やりすぎだ。

「いいよ。これでいつでも凌空と可南子と出かけられる」

 しかし間髪を容れずに返され、なにも言えなくなる。

 凌空と綾人を会わせていい のか、そもそも私が綾人と会っていいのか迷っている間、綾人は今日を楽しみにしてくれていたんだ。

 胸が温かくなる一方でズキズキと痛む。嬉しく思ってしまうのは、勝手だ。

 凌空が心配で彼の隣の席に私は座った。でも機嫌はとてもよく杞憂に終わる。

「どこに行くの?」

 車が走り出し、それとなく尋ねる。

 飛行機が見えるって、どこだろう? 空港じゃなくて?
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