敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「海だよ」

 さらりと告げられた答えに目を丸くする。あまりにも予想外の場所だった。

「海?」

「うみー!」

 凌空が元気よく反応を示し、嬉しそうにしている。

「泳ぐわけじゃないけどな」

 凌空の考えを読んだのか、綾人が苦笑しながら告げた。飛行機がよく見える海岸スポットなどあっただろうか、と考えを巡らせるが候補が浮かばない。

 そう遠くはないらしく、おとなしく綾人に行き先を任せる。

『ねぇ、どこに行くの?』

『行ったらわかるよ。きっと可南子が気に入ると思う』

 デートする時、彼が行き先をはぐらかすことはよくあった。でも言葉通り、いつも私が楽しめる場所に連れていってくれる。

 ああ、嫌だな。心の奥にしまっていた思い出や感情が彼に再会したことで溢れ出す。もうとっくに私たちの関係は終わった。私が自分勝手に終わらせたんだから。

 確かに海とは聞いていた。だから私はてっきり空港近くの海岸かどこかで飛行機を見るのだと思っていた。それが、まさか――。

「ふねー」

「凌空、お願い。跳ねないで!」

 手を繋いでいる凌空が上機嫌で軽くジャンプし、注意というよりも懇願する。周りに人も多く、ここは陸地ではない。

 駐車場に車を停め、綾人に案内されたのは観光船やクルーズ船、水上バスなど発着する乗船場所だった。周りはオフィスや商業ビルに囲まれていて、利便性が 高く存在は知っていたが、利用したことはない。

「今日は飛行機を間近で見えるクルージングに申し込んでいたんだ」

 飛行機を見るために船に乗るとは思ってもみなかった。しかし凌空は目の前の大きな船に目を輝かせている。
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