別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 綾人がスマホの画面をスタッフに見せると、船の中に案内され救命胴衣をつけるよう説明を受ける。凌空には子ども用のものが用意されていて、嫌がるかと思ったが、素直につけさせてくれた。

  平日とはいえ八月なので、他の同乗者も家族連れが多い。不快感はないが、水に浮いている独特の感覚と揺れにいささか緊張してしまう。

 凌空は私とは対照的に大はしゃぎで、それはそれで心配になる。ひとまず座ろうと繋いでいる手につい力が入った。その時不意に綾人が凌空を抱き上げる。

 目を見張る私に対し、綾人は慣れた手つきで凌空を抱っこして景色を見せてから腰を下ろした。凌空がその状況をすんなり受け入れていることに驚く。

「うみー」

「ここはまだ川かもしれないな」

 綾人に支えられながら、水面を指差す凌空に綾人が優しく答えた。

 出発のアナウンスがあり、小さく飛沫を上げながら船は動き出した。奥にはクリアな屋根に覆われた室内タイプの場所もあるが、このままデッキの部分で過ごす。

 水分を多く含んだ空気を肌で感じ、潮風に吹かれる 中、凌空は楽しそうに声をあげた。

 クルージング自体は一時間三十分ほどで、空港沖に向かい間近で飛行機を見られるのがメインになっているそうだ。

 すれすれの橋の下を通り、沖に出ていく。私は凌空を抱っこしている綾人の隣にそっと座った。

 凌空は飛行機が一番好きだが、乗り物の図鑑をよく見ているので船も知っているし大好きだ。きっと綾人はそこまで考えてこの計画を立ててくれたのだろう。
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