別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません

「綾人、子どもの扱い上手だね」

 風と船のエンジン音のため、やや声を張り上げる。今のやり取りもそうだが、家に来た時も凌空の相手をすると申し出てくれたし、抱っこだって簡単なようで、経験がなくためらう人もいるだろう。

「兄のところに子どもが生まれたのもあって」

 彼にはふたつ年上のお兄さんがいたのを思い出す。シャッツィの正式な後継者で、お兄さんが会社を継ぐから自分は好きな道を目指せるとよく言っていた。

「お兄さん、結婚されたんだ」

「ああ。てっきり結婚しないと思っていたけれど、人間どこでどうなるかわからないな」

 そう話す綾人は嬉しそうだ。やっぱり身内の結婚は喜ばしいのだろう。

 付き合っていた時、お兄さんは結婚に興味がないから両親がヤキモキしていると冗談交じりに話していた。お母さんは、お見合いを画策したりしているなんて話も。

 そう考えると、綾人だって同じような境遇にいると考えた方が自然だった。お兄さんはシャッツィの後継者だからとあの時の私は考えていて、綾人も学生だったから。けれど、後から知った川嶋さんの存在はやはり本当なのだろう。

 幸せそうな兄夫婦を見ていたら、綾人も結婚したいって思ったのかな。

『結婚しよう』

 彼から告げられた言葉を思い出し、頭を振る。今日は凌空との約束を果たすために綾人と会っただけだ。でもきちんと答えないといけない。

 真面目に凌空の相手をしている綾人の横顔をこっそり盗み見る。
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