別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 いつも通りの凌空の反応を微笑ましく思っていたら、なぜか綾人は目をぱちくりとさせている。

「山口?」

「あっ」

 そこで気づく。綾人は私が結婚したと思っているから、凌空が私の旧姓をそのまま名乗っていることに違和感を抱いたのだろう。『夫が私の名字を名乗っている』『夫婦別姓』あらゆる言い訳が頭を駆け巡る。

「可南子、旦那は?」

 しかし、そのどれかを口にする前に綾人が私の目を見て真っすぐに尋ねてきた。おかげで、つい口ごもる。

「それは……」

 なんとか誤魔化さないと。彼が私の結婚だけではなく、凌空の父親について疑問を抱く前に。

「別れたの」

 悩んだ末、端的に答える。夫がいると嘘をつくべきだとも思った。『今日は仕事で一緒にいない』『これから凌空と会いに行く予定だ』などいくらでも言える。

 どうせ綾人とはこれっきりだ。けれど凌空は完璧ではなくても、だいぶ大人の話している内容を理解するようになってきた。下手に嘘をついて混乱させるわけにはいかない。

 なにより凌空には『お父さんは飛行機のパイロットをしていて、お空を飛んでいる』といつも話している。

「可南子」

 綾人の反応を気にしていると、不意に腕を掴まれた。その感触に体がびくりと震える。

「一度、会って話せないか? 俺の連絡先、変わってないから」

 彼の行動に驚く間もなく、まさかの申し出に心が乱れる。
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