別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 くっきりした目鼻立ちはぱっと目を引き、背が高く均整が取れた顔立ちは、男女ともに好印象を抱かせる。爽やかな雰囲気に、優しい笑顔は老若男女問わずに虜にする。

 きっと凌空が綾人にあっさりと懐いているのは、彼のそういった魅力も関係しているんだろうな。

 海風に煽られながら揺れる短めの黒髪はサラサラで、指を通すとすぐに滑り落ちてしまうのを私はよく知っている。

「どうした?」

 不意に綾人と視線が交わり、あまりにも見すぎていたかとすぐに目線を下げる。

「な、なんでもない」

 心臓が急に早鐘を打ち出す。思い出した内容が内容なので、なにやらものすごくうしろめたい。

「心配しなくても凌空を落としたりしない」

「あ、当たり前だよ!」

 反射的に返すと、再び目が合った。一瞬の沈黙が落ち 、次の瞬間綾人の手が肩に伸びてきて彼の方に抱き寄せられる。距離が縮まり 、戸惑いが隠せない。

 綾人は私から手を離すと、再び凌空を両手でしっかり支え直した。

 なにも言えず離れることもできない。でも肩と肩が触れるほどの近さに、どうすればいいのかわからなくなる。

「ひこーき」

 凌空が今度は空を指差した。周りの建物はいつの間にかなくなり、空が開けている。もう空港が近いらしい。

 船はスピードを落とし、間もなく飛行機を見るのにポイントに入ったと説明が入る。そうこうしているうちに、また一機近くを飛んでいった。アナウンスで行き先やどこの航空会社の情報も伝えられる。

「ほら。まだ来るぞ」

 そう言って綾人が凌空を抱え直した。あまり間を空けずに飛行機は次々と飛んでいく。
< 70 / 189 >

この作品をシェア

pagetop