別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「違うよ。綾人はなにも悪くない……」

 小さく首を横に振って、精いっぱい否定する。

 あの時綾人に相談できないまま、ひとりで悩んで綾人との別れを決めた。傷つけるってわかっていたけれど、彼には川嶋さんがいるし、私の存在なんてすぐに忘れるだろうと勝手に決めつけていた。

 自分のことばかりだったのは、私の方だ。

 再び謝罪しようとしたら、そっと頭を撫でられる。

「だから可南子が今、不安に思っているものを言ってほしい。ちゃんと受け止めるから」

 優しく告げられ、私は下唇を一度噛みしめた。そしてわずかな間が空き、口を開く。

「綾人と私じゃ釣り合わないよ。結婚って当人同士の問題だけじゃないもの。周りもご両親もきっと納得しない」

 大林さんの時に思い知った。権力があったりそれなりの立場に いたりする人は、結婚は感情ではなく自分の利益のためにする。名ばかりのものでも、そこに愛がなくてもいい。綾人も同じとは思わないけれど、彼の意思だけで結婚が許されるのか。

 なにより――。

「凌空の存在だって、どう思われるのか。私のせいで凌空が傷つけられたら……」

 私はなにを言われてもいい。ただ、凌空はある程度、なにを言われているのか理解できる年齢になっている。自分に向けられる感情がどんなものかも。

 わざと妊娠したって思われたら。綾人との結婚が目当てなんだろうって。凌空を認めないどころか、ひどいことを言われたら……考え出すと止まらない。
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