別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「可南子がかわいくて、つい……」

 おかしそうな彼の声がすぐそばから降っ てくる。大きな手のひらが私の後頭部をゆっくり撫でた。

「嫌だったか?」

 ところが、続けられた言葉はどこか不安そうだった。

「い、嫌じゃなかった」

 おかげで顔を上げてすぐさま否定する。つい声が大きくなってしまい、慌てて口を噤んだ。目を丸くした綾人と目が合い、わざと視線を落とす。

「ただ……綾人とキスするのが久しぶりで……どうしたらいいのかわからなくて」

 たどたどしく言い訳をすると、顎に手をかけられ上を向かされる。

「わからないなら、またじっくり教えますよ、奥さん」

「い、いい! それにまだ結婚してないでしょ!」

 からかい混じりの綾人に言い返す。しかし彼は何食わぬ顔だ。

「そこにこだわるなら、今からでも婚姻届をもらってこようか?」

「それは、さすがに……」

 ふざけているのか真面目に言っているのか、どうも判断できない。ここで私が首を縦に振ったら、彼は本気で婚姻届を用意しそうだ。

 眉尻を下げる私に、綾人は微笑んで目尻に唇を寄せてきた。

「わかってる。可南子の両親への挨拶や凌空のことをちゃんとしてからだな」

 そうやって、冗談を言いつつも順番や礼節などを大事にする綾人の誠実なところも好きだったと感じる。
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