敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「これ、りくのひこーき」

 さっきから上機嫌な凌空と違って、彼の隣に座る私は緊張のあまり、今にも心臓が口から飛び出しそうだ。外の景色など目に入らず、何度も窓に映る自分の姿を確認する。

「そんなに緊張しなくてもいい」

 運転席でハンドルを握り、窓に反射して映る綾人は前を向いたままおかしそうに言ってきた。すぐさま窓から本物に視線を向ける。

「そ、そんなこと言われたって……」

 緊張しないわけがない。八月も終わりが見えてきた平日、私は綾人の運転で結婚の挨拶をするため、彼の実家に向かっていた。午前中、綾人は飛行訓練のため出勤していたので昼過ぎに彼と合流し、夕方の待ち合わせとなっている。

 準備する時間は十分にあったけれど、私はずっと落ち着けずにいた。

 結婚の挨拶なので、スーツと迷ったものの薄手のレース袖ブラウスに、広がりすぎずややシックなフレアスカートを組み合わせた。髪は自分なりに編み込んでハーフアップにしてきたもののやっぱり美容院に行くべきだったかと少しだけ後悔している。

 凌空には無地の襟付きシャツにシンプルな紺色のズボンを選んだ。着せてみると赤ちゃんだった凌空がすっかりお兄さんになっている姿にちょっとだけ感動する。

 そんな私の思いなど知る由もなく、彼はこの前綾人からもらった飛行機型のリュックに夢中だ。シルエットが丸い飛行機の形をしていて、凌空はひと目で気に入った。外だけではなく家の中でも背負い、挙句の果てに保育園もこれで行くと言い出したのでそれはそれで大変だった。

 今は前で抱えるようにして大事にしている。
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