同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
「そ、その! ケースの底にうちのラベルを貼ってるんです! これが証拠です!」
 
まだ展示している標本の底と、奪い返した標本のケース底を見せる。

「決定だな、窃盗だ」
「ぐ、むむむ」

泥棒を威圧する北園さんに、成り行きを見守ってくれていた花世ちゃんが言う。

「私ケーサツ呼んどきました! 災難だったねえ、ほのさん」

来た警察に泥棒を引き渡し、聞き取りと手続きを終えて、用事のあった花世ちゃんは帰した。

「お店をやっていると変な輩も来るんだね、勇気を出して頑張った、帆夏さん」
「いえ、北園さんが最初に泥棒を止めてくれたから。紅茶を飲みに来たのに、こんな時間まで付き合ってくれてありがとうございます」

この人は本来多忙な人、なはず。
それが時間を割いて同じ県内とはいえド田舎まで来てくれるの、私のお店で息抜きしたり癒されるためだよね?
なのに今日はそれを果たせたと思えない。泥棒といざこざとか、癒しとは真反対だった。
謝りたいくらいだったけど、北園さんはお詫びされたがるタイプじゃないから、せめて感謝をしっかり伝えときたかった。

きっといつものように「また来ます」で返してくれると予想していた私に、北園さんは。

「君が、感謝をくれるならせっかくだし、笠に着てわがまま言ってしまおうかな」

なんですって!!?
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