同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
『デート』

「着てみたなら出ておいでよ、僕はそんなに忍耐強くないんでね」
 
わああ、どうしよう。北園さんは笑い飛ばしたりしないだろうけど。
あ、どうかな? この人たまにぜんぜん予想外の反応するからな。

この『デート』だってそうだもの。
私は試着室のカーテンをぎゅっと握った。

このあいだ、標本の泥棒を撃退したあと、北園さんは「感謝してくれるくらいなら次の休日僕とデートして」と言ったのだ。
断ることもできなくて、控えめにうなずき、私は北園さんと約束を結んだ。

約束当日お昼過ぎ、いつも通り仕立てのいいスーツに身をつつみ御曹司然とした北園さんが迎えにきた。
運転手付きハイクラスEV車で連れてこられたのが、ランドマークにもなっているビルに入った高級服飾ブランド。
デート、といって何着ていいかわかんないからいつもお店に出るのと大差ない格好だった、入るのすら畏れ多い。
けど北園さんは店内でぱぱっと商品をとってから、私を試着室に押し込んだ。

試着を求められたトップスのタグがちらっと見えて、罪悪感がこみ上げる。
この流れで「着て」と求めた服を私に買わせたら詐欺並みに酷いから、北園さんはここのお洋服代をもってデートする気なのだろう。ドラマでちょくちょく見るやつ。

このお値段も御曹司は気にならないかもしれない。でも申し訳ないよ。
ちょっとずつお金を貯めて、いつか返そう。
金銭的な決意はできたけど、あとはこの姿を人に見せる勇気……!
試着室から出たくなかったけど、北園さんを待たせている。
諦め私はえいっとカーテンを開けた。
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