同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
苦笑して北園さんはフォークを置いた。今日あまり目にしなかった冷静な表情だ。

「ずっと、お店に通ってくれる北園さんを疑う気持ちがあったんです。御曹司が、ちっぽけなお店に通うのって裏があるんじゃないかって。今日なんか、やりすぎなくらい、いい思いをさせてくれたし。ここまでするのは……やっぱり私に研究をさせたいからじゃないかって」
「ちがうよ! ……もちろん、そこからはじまったのは事実だ。でも、そこから変化したって、信じてほしいな」

私は唇を巻きこんでから、もっと突き詰めてみる。

「私と石の話してるの、本当に面白かったですか?」

今度は北園さんは眉を寄せて悲しそうな顔をした。

「面白いよ、それは絶対に信じてほしい。……僕は両親にグループ後継として期待されて、教育されてきた。横道に乏しい学びしかしてこなかった……宝石の名前や種類なんて、一般的なもの以外はさっぱりで知らなかったから。君の話には心動かされたよ」
「心、動かされ……?」
「僕はさ、両親の期待通り、まっすぐ育ってきたつもりだけど、幼い頃は我慢も多かったように思う。たくさん……したいことを我慢してきたせいかな、専務になってちょっとは自由になったのに、今度は心が動くことがなくなってしまっていた」

目線を落とし気味にした北園さん。
彼自身、それを寂しいことと感じていたんだろう。
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