同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
「久々に動いたなって思ったのは、君に勧誘を断られた時だよ。悔しい、という方向性だったけど」
「それは、すみません」

謝罪に対し、ゆっくり横に首を振られた。そして、北園さんが私を直視する。
はじめて会った時のように、囚われると動けなくなる、美しい瞳。

「そこから、僕の心は振り子のように動き続けてる。石の話や、泥棒騒ぎなんかですら、久しく感じなかったこれは……。デートに誘っておいてなんだけど、この動きがなんなのか僕はまだ確かめてる途中なんだ」

ああ、北園さんとても真摯に答えてくれた。
私としても、とても腑に落ちる。
長年抑制してきた彼を、私は拒絶というハンマーでカンっとなぐって、それで彼は揺れ始めた。
私との時間を取るのは、彼が自身の揺らぎを確かめるため。
いつか、落ち着いて揺るがなくなった時、きっと北園さんは私とお店から間遠になるのだろう。

この『デート』の距離感はそういうことだったのだ。
北園さんはカトラリーを手に食事を再開する。

「お皿のごはん、なくなったからデザートを見てきますね」

ちょっとの寂しさを紛らわしたくて、気になっていたホワイトチョコレートファウンテンの膝下に広がるデザートコーナーに向かう。
たくさんのデザートを用意して置けるのは大きい店舗の特権だね。
パッションピンクの縞が入ったチーズケーキ、ぽってり丸いピスタチオクリームをのせたタルト、(かんざし)みたいな串に刺されたお菓子の数々。どれもアクセサリーみたいに可愛くておいしそう。

「ん?」

私の目は奥のトレーに釘付けになった。
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