同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
「へ?」
「今のメニューはコーヒーと紅茶、アイスとホットだけだよね」
「はい、おかげでほとんど廃棄を考えずにやれてるんですよね」
「このお菓子を入れた飲み物を一点増やすってどうかな、日持ちするものだし、仕入れは僕がサポートする。鉱物カフェらしいメニューを作ってみないか」
「それ、楽しい……とても面白そうです。北園さん! いいアイデアをありがとうございます」

これまで、飲み物へのこだわりがほとんどなかったけど、この提案はやってみたくなった。
わくわくする私に北園さんが視線をよこす。

「ね、帆夏さん」
「はい、なんですか北園さん」
「その、呼び方なんだけど。僕は君を下の名前で呼んでいるのに、君が苗字のままなの、よそよそしくないかい?」
「いいえ? よそよそしいとまでは思わないですけど」

私の否定に、北園さんは焦れた顔をする。

「なんとなく、僕が御曹司の立場で無理に名前で呼んでいる感じがしていて」
「なら、北園さんも私を苗字呼びにしてそろえますか」

ぐう、っと軽くうめき声? 気のせい?

「帆夏さんが、僕を名前で呼べば釣り合いがとれると思う」
「そうきましたか! ……べつにそうまでして釣り合いをとらなくてもいいのでは……?」
「僕はとってほしいよ。実は帆夏さん僕の名前忘れちゃった? 涼晴(りょうせい)だよ」

ドッと鼓動が不穏に騒ぎだす。この感じ、ぜったい、照れて真っ赤になっちゃう。
でもここまで言われてしまったら、呼ぶしかないか。

「りょ……涼晴さん」

途端にあらわれた、噛み締めるような、こちらまで染み込む幸福感のある微笑み。

「……これは、……動く」

きたぞのさ……涼晴さんの笑顔はとても好き。
私が涼晴さんの心を揺らせる期間、少しでも長く続いてくれますように。
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