同僚に研究と彼氏を盗られて田舎で鉱物カフェしていたら出会った、溺愛とろあま御曹司
ふれて動いてく

涼晴さんとのお休みの日デートはまだ続いている。

今回の『デート』は野草をテーマにした展示場で、素朴な草花を楽しんだ。
そういう人の少ない場所の方が、彼は気楽みたい。
涼晴さんはどこに行っても注目されるし、御曹司の顔を知っている人もいるだろうから、衆人環境では肩から力を抜けないのかも。
喉が渇いたから、ラグジュアリーなホテルの喫茶で、お茶をしていくことになった。

「喉を潤したあとは、部屋でメニュー考案にしようか」
「あ、はい」

最近のデートで涼晴さんは「人目があると集中できないから」とホテルのスイートを借り、そちらで話したりメニューの相談にのってくれるようになった。
最初こそ「ホテルの部屋!?」と身構えた。
けど、御曹司にとっては高級ホテルの一室も漫画喫茶やカラオケルームの扱いみたい。

これも花世ちゃんに言わせれば
「いやいや! そんなわけないでしょ!! 北園さんガチで罠をはってるよ! 警戒心を薄れさせてぱっくりする作戦だよ、ほのさん北園さんの仕掛けに片足つっこんでるんだよそれ!!」
だったけど、涼晴さんは二人きりの密室でも変な雰囲気は出してこないから。

毎回、宿泊やベッドではなく応接部分目当てにスイートルームを使用している。
涼晴さんは「人目があると……っていう僕の事情だから遠慮しないで」と言うし、仕方ないと思ってる。
 
ラテアートのシロクマをスプーンで突いたところで、涼晴さんのスマホが震えた。
着信を受けた彼は、一言二言を話し通話を切る。

「すまない帆夏さん、ちょっと仕事の話をしなきゃいけなくて、席を外すよ。飲み終わるくらいには戻るから」
「はい、いいですよ。お仕事頑張ってください」

ピシッとしたスーツの後ろ姿を見送る。
二人で会う時も、臨時の案件が出ればすぐ出られるよう涼晴さんはいつもスーツだ。
いかにも御曹司、な格好しか見たことがない。
もっと、崩れた格好を見てみたいような。そこまで踏み込んでしまってはダメのような。

クリームをすくったところで、ゾッと悪寒がした。
もう二度と耳にしたくない声が、耳に届く。
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