悪女は果てない愛に抱かれる
安哉くんと別の高校を受験したのは、平和な学園生活を望んだから……というのは本当だけど。
実は、もうひとつ理由がある。
普通の女の子みたいに、普通に可愛くありたかったから。
普通の可愛い恋をしてみたかったから。
でも、そんなの、夢のまた夢。
せめて高校では、普通の子みたいに“大人しく”いたかったな……。
振り下ろされる拳を避けて、また避けて。
最終的に暴れ馬のごとく体ごと突進してきた相手に、もうらちがあかないと思って。
仕方なく、わたしは地面を蹴った。
浮いた体を、腰をひねりながら回転させる。
つま先が相手の顔面に直撃するように、狙いを定めて──。
「ゔが……っ」
たしかな手応えアリ。
……いや、蹴りだったから足応えかも。
倒れた相手の表情に、ようやく怯えの色が宿る。
わたしが一歩近づけば、地面をはいずるようにして逃げていってしまった。