悪女は果てない愛に抱かれる
刹那、全身を貫かれたような衝撃に襲われて。
それに気づいたのか、相手がわたしの背中にゆっくりと手を回した。
「安心しな。バイクの男は橘家が追ってた元構成員だ。今回死なずともいずれ始末される予定の男だった」
「元……構成員……って、橘の?」
「そう。だからお前には関係ない」
トーンを落としつつ、その声はとても優しい。
橘家の、元構成員……。
つまり、安哉くんじゃない……。
「よかっ、た……っ」
その瞬間、堰を切ったように涙が溢れてくる。
人の命がひとつ失われかけている状況で「よかった」なんて、モラルのない発言かもしれない。
それでも、安哉くんが無事で本当によかった。
背中をさすってくれるから、余計に泣けてきてしまう。