悪女は果てない愛に抱かれる

刹那、全身を貫かれたような衝撃に襲われて。

それに気づいたのか、相手がわたしの背中にゆっくりと手を回した。



「安心しな。バイクの男は橘家(ウチ)が追ってた元構成員だ。今回死なずともいずれ始末される予定の男だった」


「元……構成員……って、橘の?」


「そう。だからお前には関係ない」


トーンを落としつつ、その声はとても優しい。


橘家の、元構成員……。

つまり、安哉くんじゃない……。


「よかっ、た……っ」


その瞬間、堰を切ったように涙が溢れてくる。


人の命がひとつ失われかけている状況で「よかった」なんて、モラルのない発言かもしれない。

それでも、安哉くんが無事で本当によかった。



背中をさすってくれるから、余計に泣けてきてしまう。

< 101 / 197 >

この作品をシェア

pagetop