悪女は果てない愛に抱かれる
「どうかな。またぶっ倒れそうな顔してるけど」
「〜っ、そ、その節はご迷惑をお掛けして……うう……。でももう本当に平気なので! それに上の人を待たせてるんだよね? 留めておくほうが申し訳なさすぎるから、どうぞ行っちゃってください……」
そこまで言い切ると、観月くんはようやく体を離してくれた。
「わかった。でも帰りはどうすんの。送りの車手配してやろうか」
「い……いや大丈夫! 家すぐそこなんだよね、歩いて一キロ圏内」
まさか桜通りに住んでますとは言えなから、ここは嘘を吐くしかない。
「そう。じゃー気をつけて」
「……うん、ありがとう」
「あと。泣くほど大事な相手なら、それをそのまま言えばいいんじゃねえの」
そんな声と同時に、肩にふわりと何かが掛けられた。
見ると、スーツのジャケットだ。
「え? これ……」
顔をあげたときには、観月くんはもうわたしに背を向けて、誰かに電話を掛けていた。