悪女は果てない愛に抱かれる

記憶を昨日の朝まで巻き戻してみる。


朝目が覚めて安哉くんがいないことに気づいた時点で、既に漠然とした不安があった。


行き先どころか、帰ってくるのかすらわからず。



そして日曜日。

朝になれば、何事もなかったように部屋で寝ているんじゃないかという期待は、あっさり裏切られて。


組織の本部に電話を掛けても来ていないと言われ、お父さんには知ったことじゃないと跳ね除けられ。


そして、トドメをさすようなタイミングで間交差点での事故のニュースを知った。


普通の家庭なら、あそこまで過剰に不安になることはないと思う。


でもウチは特殊だから──他の家庭より人の死に触れる機会が多い仕事をしているから。


事件事故の知らせを受けた際の、“もしかして”の可能性がどうしても大きくなってしまう。



血の繋がった家族。

かけがえのない大事な人。


失うかもしれないと思ったとき、どんなに怖かったか。
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