悪女は果てない愛に抱かれる
耳元で声を掛けると、うっすらと瞳が開いた。
「……なんでいんの」
「っ、観月くんが倒れたって聞いて……。でも遥世くんたちは昨日の業務の疲労で動けない感じだったから、代わりにわたしが様子を見に……」
「………」
「め、迷惑なのは承知なのですぐ帰るよ! 栄養ドリンクとかゼリーとか色々買ってきたから、体に入りそうなものを選んで食べてもらえればと」
ビニール袋を差し出せば、観月くんはゆっくりと上体を起こして。
「わざわざどうも」
そう言いながら、一本のスポーツドリンクを手に取ってくれたので、ホッとする。
「えっと……昨日は大変だったみたいだね。組織の会合かなにかあったの?」
「いや。でかいイレギュラーが起こったって感じだな」
「そうなんだ……。大変だったね」
イレギュラーな事態はうちでもときどき起こるから同情できる。
まだ幼いながら対応に駆り出された安哉くんが、地獄を見たような顔で帰ってきたこともあった。