悪女は果てない愛に抱かれる
予期せず出てきた“観月さん”に、心臓がドキリと跳ねる。
──観月くんに会ったのは、様子を見に行ったあの日が最後。
遥世くんの話によれば、観月くんはあれから点滴を打って回復したらしいのだけど、
その後すぐに橘家の本邸に引き戻されたらしい。
先日起こったイレギュラーな事態の対応に追われているとかで、
しばらくはビルにも顔を出さないだろうと遥世くんが言っていた。
だからこの二週間は、ずっと寂しいようなホッとしたような、どっちつかずの気持ちだった。
結局、ジャケットも返すことができないまま……。
「……あゆ先輩? 急に黙り込んでどうしたの〜」
「っ、あ、ごめん! たしかに、観月くんは専ら観賞用って感じだよね……」
「んね、もはや偶像みたいな美しさだよねー。しかもめっちゃガード固いの! この前繁華街歩いてるときにラウンジの綺麗なおねーさんに声掛けられてたんだけど、ばっさりスルーしてた!」