悪女は果てない愛に抱かれる
ルリちゃんが大声でアレ呼ばわりしながら指差したことで、クラスにいた人の視線が一斉に遥世くんに向いた。
さすがの遥世くんもびくっと肩を震わせる。
わたしは慌てて耳打ちした。
「だめだよ……! 遥世くんは教室では正体隠してるらしいから……っ」
「っ、やば! やっちゃった!」
ルリちゃんがさっと目を逸らしたので、なんとかことなきを得た。
「しょーがない。遥世くんはラインで誘っとくね」
スマホにメッセージを打ち込むルリちゃんを見ながら、わたしは再び考え込む。
……誘いを受けても、大丈夫だよね?
観月くんはわたしの正体に気づいて近づいてきたんじゃないか……とか。
さっきそんな可能性も疑ったけど。
きっと考えすぎだよね。
安哉くんの妹だって怪しまれる要素はないはずだし。
しかも、相手はあの橘家の息子。
もし正体に気づいているなら面倒なことはせずに、とっとと締め上げて、拷問なりなんなりして吐かせているに違いないもん。