悪女は果てない愛に抱かれる
再び沈黙が訪れる。
女の人の声は聞こえなくなったのに、どうしてかずっと気まずい。
「……今井、顔が赤すぎる」
「っ、しょうがないこればっかりは……っ。逆に遥世くんがすごいんだよ、なんでそんな冷静でいられるの?」
「冷静に見えたならよかったけど。実際やばかったよ、あの女の声に当てられて、今井のことどうにかしそうだった」
「……、え……」
「僕の理性がちゃんと働いてよかったね」
見つめられる。
遥世くんの瞳は少し色素が薄くて、透き通って見えた。
「ていうか今井、いつから僕のこと下の名前で呼ぶようになったの」
「……っ、え、下の……名前?」
うまく回らない頭でしばらく考えて、ハッとした。
そうだ。
わたし、初めは佐藤くんって呼んでいたはず。
「ごめん! 心の中ではずっと遥世くんって呼んでたから、つい……!」
「へえ、無意識だったんだ。……可愛い」
「っ!? え……」