悪女は果てない愛に抱かれる

その直後。

ポケットの中でスマホが一度だけ振動した。


安哉くんからのメッセージ通知だ。


嘘……。

最近安哉くんからの命令はめっきり減ってたのに。

このタイミングで?


通話じゃなかったのが幸い。

こっそり通知を開いて──息を呑む。



【 父さんから呼び出しがあった。大事な話があるらしい 】

【 今すぐ家帰ってきて 】



「……っ」


お父さんからの呼び出し。

つまり仕事の話……。


「今井、どうした」


向かいに座る遥世くんが顔を覗き込んでくる。



「ご……ごめん、家族から連絡きて、今すぐ帰ってこいって」

「まじか。じゃあしょうがないな」


「ルリちゃんにもごめんって伝えておいてもらえるかな……」

「妹のことは気にしないで。気をつけて帰ってね」


「ありがとう……」


急いで紅茶を飲み干して、ごちそうさまでした、と手を合わせる。


「じゃあ、失礼します。またね」


わたしは駆け足でビルをあとにした。

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