悪女は果てない愛に抱かれる
瞳孔の開ききったその冷たい目が、ふと、わたしを捉える。
「お前……命知らずもほどほどにしろ」
観月くんはそう言いながら、振り上げた脚を気だるそうに振り下ろし、最後、男に重い一撃を食らわせた。
相手は気絶したのか、ピクリとも動かなくなる。
座り込んだままのわたしの元へ、観月くんがゆっくり歩み寄ってきた。
「……観月くん、どうしてここに……?」
「それはこっちのセリフだな。行くとこ行くとこにお前がいるから毎回びっくりする」
「………」
「それより早くここから離れたほうがいい。サツがきて事情徴収求められたら面倒くさい」
「……え……でも、」
目撃者として情報は提供すべきだよ。
と、言いかけてやめた。
観月くんは極道一家・橘家のご令息。
そしてわたしもまた、極道一家・桜家の直系の血を引く娘。
こういった事件に足を残すのは、たとえ第三者であったとしても得策ではない。