悪女は果てない愛に抱かれる

わかった、とうなずいて立ち上がろうとした。

……ものの、なぜか力が入らない。


ナイフを向けられた恐怖で筋肉が萎縮しちゃったんだ……。

情けない……。


すると、ふと目の前に影がかかった。

甘いムスクの匂い。

観月くんが屈み込んで、目線を合わせてくる。



「俺たち、どうしてこんなしょっちゅう会うんだろうな」



熱のこもらない声がすぐ近くで響いた。



「仕組まれてる可能性すら感じる」

「っ、……」



見つめてくる瞳は相変わらず静かで。

だけど……なにか……どこか、様子がおかしい。


観月くんが、ゆっくりとわたしの肩を抱いた。



そして次の瞬間



「強盗相手に立ち向かうとか……
さすが、桜安哉の妹」



──わたしの世界は、真っ暗になった。

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