悪女は果てない愛に抱かれる


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そこは、ホテルの一室とは思えないほど広く豪華な空間だった。

ガラス張りの壁からは外の景色が一望できた。

きらびやかな街の光は幻想的で、さらに現実味を失わせる。


空にはもう月が上っている。

嫌味なくらい綺麗な光を放つ満月だった。



それをぼんやり眺めていると、観月くんがそばにきて、わたしに掛けた上着を雑に剥ぎとった。


かと思えば、制服のシャツのボタンにまで手を掛け、いっきに胸元まではだけさせた。


「っ、え……?」


戸惑いで上擦った声が漏れる。



「そこまで深くはないか……でもまだ血が出てるな」


その周辺を指先で優しくなぞられて、ようやく、ナイフで切りつけられた傷のことを言っているのだとわかった。



「か、かすった……だけだから」

「とりあえず脱げよ。制服は洗濯に回す」


「え……でも、」

「どうせその格好じゃここから帰れないだろ」

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