悪女は果てない愛に抱かれる
心臓が嫌な音を立てた。
安哉くん、今、なんて……。
『橘側がうちの要求を呑めばその女を解放することになってるが、万が一、連合の奴らが倉庫の場所をつきとめた場合、問答無用で乗り込んでくる可能性も十分ある。そのときお前がいれば、だいぶ戦力になるから──』
安哉くんが説明していることも、すべて右から左へ抜けていく。
どうか、聞き間違いであってほしい……。
「安哉くん……女の子、拐った、って……」
『……父さんの命令なんだからしょうがないだろ』
「っ、その子の名前、ルリちゃん、って……」
『ああ』
手の力が抜けて、スマホを落としかけた。
「っ、今すぐその子を解放して!」
『はあ!? 何言って……』
「こんなわたしのことを初めて好きって言ってくれた子なの……っ、わたしの大事な友達なの……っ!!」
涙がぼろぼろ零れていく。
安哉くんが何か言う前に通話を切った。