悪女は果てない愛に抱かれる
信か、疑か

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気がつけば、わたしは極上に柔らかい高級ソファに座らされていた。


目の前のローテーブルにはフリルつきのクロスが敷かれ、その上にはケーキの乗ったお皿とティーカップがあった。


すごく可愛いし美味しそうだし、普段のわたしなら間違いなく夢中になるはずなのだけど。



──『おまえ誰』


先程のエントランスでの光景が、逃げても逃げても追いかけてきて。
熱のこもらない彼の瞳が、脳裏に焼きついて離れなくて。



「あゆ先輩、遠慮しないで食べて!」

「……ああ、うん、ありがとう、いただきます」


無礼にも、ぼうっと上の空でケーキにフォークを伸ばしてしまう。


あのあと、“ミヅキさん”と呼ばれた彼はルリちゃんとひとこと、ふたこと会話を交わすと、すぐにどこかへ出かけていった。


ここは若い子がほとんど立ち入らない旧橘通り内にあるビルで、さっきの彼の名前は“ミヅキ”で……。


最悪のパターンの必要十分条件が揃ってしまっている気がする。
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