悪女は果てない愛に抱かれる

慌ただしい足音ともに安哉くんが部屋に入ってきて。

わたしは観月くんに抱きついた状態で、カチン、と固まった。



「安哉さん! そいつ恐らく橘観月です! そんでその女が人質を逃しやがった犯人で……!」


安哉くんの目が大きく開いていく。


どう、しよう……。

どうしたら……。


必死に頭を回転させる。


ここでわたしが桜家の娘だとメンバーにバレたら、安哉くんの立場が危うくなってしまう。

裏切り者の妹がいると……。


安哉くんを傷つけるわけにはいかない。


それを回避するルートははひとつだけ。

わたしが“今井”あゆあとして、桜通連合(彼ら)にとっての悪女になること……───。


わたしは目の前のネクタイをつかんで

つま先を伸ばした。


そして、観月くんの唇にそっと口づける。

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