悪女は果てない愛に抱かれる

一刻も早くこの部屋から出て行きたい気持ちをおさえて、カップを手にとった。

指先が震えるせいで紅茶の表面がとても不安定に揺れている。


緊張からくる喉の渇きを紅茶で癒しつつ、同時に頭をフル回転。
ゆっくりゆっくり飲むことで、考える時間を稼ぐ作戦である。



「この紅茶、香りがとても良くて美味しい~……」


これ以上ボロをださないように、まったく関係のない話題への転換を試みると、ルリちゃんの表情がぱあっと輝いた。



「美味しいよね! 実はこれね、遥世くんがイギリスから取り寄せてくれたダージリンなんだーっ」

「ええ~、イギリスからわざわざ? す、すごいねえ」



口では感心しながらも、正直、味や匂いを感じている余裕はなかった。

すると突然。


「口に合ってよかった。僕も隣、失礼していい?」


そんな声がかかり、こちらがうなずく間もなくソファが沈む。


「今井とずっと喋ってみたかったから、ここで会えて嬉しい」
< 25 / 197 >

この作品をシェア

pagetop