悪女は果てない愛に抱かれる
ふたりして無言。
拷問のような時間。
まさか、安哉くんの双子の妹だってバレて、詰められようとしてる?
いや、そんなわけない。
でも、そうじゃないなら、なんでわざわざわたしとふたりきりになるの……?
エレベーターに乗ってから降りるまでの時間は、永遠にも思えた。
「お見送り……ありがとうございました」
ようやく扉が開き、気まずさがやや和らいだところで、声を掛けてみた。
相変わらず、目を見ることはできない。
ありがとうに対する返事はなく。
代わりに、何かカードのようなものを差し出された。
──わたしの生徒証だ。
「…………“今井あゆあ”」
静かに名前を読み上げられ、胸の左側が痛いほどに反応する。
「なん、で、生徒証を……」
「さっき廊下で会ったときお前が落としたんだよ」
「っ、え……」
急いで記憶を巻き戻す。
……あ。
きっと、彼の前でハンカチを取り出してみせたとき、これも一緒に落ちちゃったんだ。