悪女は果てない愛に抱かれる
「拾ってもらって、ありがとうごさいます……」
受け取ろうと手を伸ばしたのに、なぜか躱され。指先は、虚しく空を切った。
「え?」
見上げた先で視線がぶつかる。
……あ、しまった。
──────呑まれる。
深い海のように底の見えない闇。
太陽を映す水面のように鋭い光。
彼の瞳は、そのふたつを同時に宿していた。
「お前、もうここには来るな」
指先に、冷たいとも熱いともつかない温度が伝わった。
少し遅れて、生徒証を握らせられたのだとわかる。
彼が背を向けたあとも、わたしはしばらく、その場から動くことができなかった。
──────
───