悪女は果てない愛に抱かれる


「拾ってもらって、ありがとうごさいます……」


受け取ろうと手を伸ばしたのに、なぜか(かわ)され。指先は、虚しく空を切った。


「え?」


見上げた先で視線がぶつかる。


……あ、しまった。

──────呑まれる。


深い海のように底の見えない闇。
太陽を映す水面のように鋭い光。

彼の瞳は、そのふたつを同時に宿していた。




「お前、もうここには来るな」



指先に、冷たいとも熱いともつかない温度が伝わった。

少し遅れて、生徒証を握らせられたのだとわかる。


彼が背を向けたあとも、わたしはしばらく、その場から動くことができなかった。



──────

───




< 39 / 197 >

この作品をシェア

pagetop