悪女は果てない愛に抱かれる
終か、始か
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最低でも三十秒は沈黙していたと思う。
言葉はきちんと聞き取れた。
聞き取れたのだけど、いくら反芻しても、意味を噛み砕くことができなかった。
その沈黙を、命令に対する拒否だと受け取ったらしいお父さんは、まあまあ、となだめように小さく笑った。
「明日にでもすぐ抱かれてこいと言ってるわけじゃない。時間がかかってもいい。そういう関係に持ち込める程度に親しくなれということだ」
「……そういう、関係、って」
「橘家は機密情報の守備が昔から徹底していてなあ、正攻法で収集するには骨が折れるんだよ」
「っ、つまり、わたしにスパイをやれと……」
そういうことだ、とお父さんが頷く。
一瞬、ぐらりと視界が揺れた気がした。
「でも、わたしが桜家の血を引いてるって……安哉くんの妹だってバレたら、」
「お前は“今井”あゆあだよ。戸籍にもそう書いてある。お前が直系の娘だってことは世間にひた隠しにしてきたから大丈夫だ」
「…………」
「だいたい安哉は心配しすぎなんだっつーの。せっかくお前があっちの高校に行ったんだから、もっと有効的に使わねえとな?」
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最低でも三十秒は沈黙していたと思う。
言葉はきちんと聞き取れた。
聞き取れたのだけど、いくら反芻しても、意味を噛み砕くことができなかった。
その沈黙を、命令に対する拒否だと受け取ったらしいお父さんは、まあまあ、となだめように小さく笑った。
「明日にでもすぐ抱かれてこいと言ってるわけじゃない。時間がかかってもいい。そういう関係に持ち込める程度に親しくなれということだ」
「……そういう、関係、って」
「橘家は機密情報の守備が昔から徹底していてなあ、正攻法で収集するには骨が折れるんだよ」
「っ、つまり、わたしにスパイをやれと……」
そういうことだ、とお父さんが頷く。
一瞬、ぐらりと視界が揺れた気がした。
「でも、わたしが桜家の血を引いてるって……安哉くんの妹だってバレたら、」
「お前は“今井”あゆあだよ。戸籍にもそう書いてある。お前が直系の娘だってことは世間にひた隠しにしてきたから大丈夫だ」
「…………」
「だいたい安哉は心配しすぎなんだっつーの。せっかくお前があっちの高校に行ったんだから、もっと有効的に使わねえとな?」