悪女は果てない愛に抱かれる

実の父には敵方の息子と寝ろと言われ、実の兄には毎日のようにこき使われ。


はああ……。
わたし、青春がこないまま大人になっちゃうのかな……。




『次は橘通り、橘通り――……お出口は左側です……――』


朝からすでにくたびれた様子のサラリーマンたちの間をどうにかこうにかくぐり抜け、ホームに降りる。

駅の喧騒の中に、密やかにため息を落とした。



そもそも、お父さんと安哉くんでわたしの扱いの指針が違うのも問題だ。

片や娘が橘観月のいる高校に入ったことをいい機会だと捉え利用しようと企み、片や橘観月には絶対に近づけさせまいとする徹底ぶり。


いったいどちらの言うことを聞けばいいのか。

うちではお父さんこそが絶対なので、普通であれば天秤にかけるまでもないのだけど。



――『お前、もうここには来るな』


任務を課されたタイミングが悪すぎる。


観月くんは、どうしてあんなことを言ったんだろう。
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