悪女は果てない愛に抱かれる
あのときは観月くんの禍々しいほどのオーラに気圧され思考が半分停止していたので、
単に『ウチの幹部以外の立ち入りはお断り』という意味で受け止めた。
でも、今になってよく考えてみると、もしかしたら……。
わたしのことを桜家の娘だって見抜いてたんじゃ……。
「……っ!」
想像しただけで、ぞっと背筋が冷えた。
いやいや、それはない。
わたしは“今井”あゆあ。
なにかと挙動不審な動きは見せてしまったかもしれないけど……
桜家の娘だと疑われる要素はなかった、はず……!
それでも、ほんのわずかでも可能性として上がってしまった瞬間、底知れぬ不安に襲われる。
仮に正体がバレていたら、今頃ルリちゃんや楓くん、遥世くんにも伝わって……。
ああああっ、どうしよう!
遥世くんに至ってはクラスメイトなのに!
校門にたどり着く頃には、指先まですっかり冷え切っていた。
そんなときに
「今井、おはよう」
なんて声を掛けられるものだから、「ぎゃあっ!?」と怪獣みたいな声が出た。