悪女は果てない愛に抱かれる
無慈悲にも、早速ふたこと目に出てきたのが一番聞きたくなかった名前。
でもこの口ぶりからして、わたしの正体はバレてないっぽい……?
「特になにも……。本当にただ、エントランスまで送ってくれたって感じだったよ」
「へーそーなんだ。だったら別にいいや」
軽く相槌を打ちながら、遥世くんは当然のようにわたしの隣に並んで歩き始めた。
「観月が女に“送る”とか、あんなこと言うのまじで珍しいからさ。ま、そもそも橘通連合に客が来ること自体滅多にねーんだけど」
「はあ、へえ〜……」
もう少し気の利いた受け答えができないものかと思いつつ、わたしにとってはセンシティブな話題なので、これが限界。
それはそうと遥世くん、学校での見た目と話し方のギャップがすごい。
地味な格好からは想像がつかないほど砕けているし、会話のテンポも早い。
サバサバというよりバサバサで、やんちゃな男の子という感じだ。